2025/03/04 11:30


真っ白とは言えない

ほんの少し灰色がかった空から

今年初めての雪が舞い落ちてきた。


上を見上げると、それは空の色にかき消され何も見えない。

横からの目線

別の異物に重なったとき

それは姿を現す。


肌に触れるそれは冷たい。


僕は、この雪がシンシンと降る様を

割と気に入っている。


周りの騒音はある。

でも、雪が降り注ぐその空気感には

どこか静けさを感じてしまう。


断続的に目の前を通り過ぎる雪を眺めていると

少しの間、別のことは忘れて

ぼぉ〜っとすることが出来る。


数年前、雪の中の戸隠神社へ参拝した時のことを思い出した。


あれは2月の後半、日の出前のまだ暗い時間だった。

しんと静まり返り、人影一つない。

酷く寒かったのを覚えている。


かなり軽装で来てしまったことを後悔していた。

雪で覆われた参道を注意深く歩く。

奥社に辿り着いた頃、陽が昇り始めホッとする。


実は、暗がりと共に自然の中の恐怖を感じていた。


せっかく辿り着いた奥社は、

もちろん閉まっており、半分以上は雪で覆われていて見ることも出来ない。

ここだろうという場所で手を合わせ、参拝を済ます。


帰り道

超巨大でとても見事な杉並木の参道から

車を停めてある参道入り口まで一直線に見渡すことが出来た。


入り口付近、参道の真ん中、真っ白な雪の中に見える小さな黒い影。

来る時には間違いなく無かった。


少し動いている様に見える。

小さいと言っても

1キロほどだろうか、かなりの距離があるから

道幅との対比を考えると、かなり大きいことがわかる。


熊かもしれない。


いや、冬は冬眠しているんじゃないのか!?

ちょっとした戦慄が走る。


熊ではないかもしれない

でも、遠くてもその何かに気付かれたくない。

何かあってもまず助けは見込めない。


その影がいなくなるまで、その場でしばらくやり過ごす。

手袋もしてないし、ただのニューバランスのスニーカー。

手足はすっかりかじかんでしまって、氷の様に冷たい。

というより、痛い。


影が消えてから、念の為5分ほど待った頃、

恐る恐る、でも急いで車を目指す。


寒さと恐怖で強張った身体は、上手く歩くことが出来ない。

気持ちだけが焦っていた。


入り口付近まで戻ると、雪の上には獣の足跡があった。


僕は獣の足跡でどんな生き物か判別は出来ないけど、

そこには僕の手のひらと同等以上の大きさの足跡があったから

本当に熊だったのかもしれない。


僕は、急いで車に乗り込んだ。

とにかく、手足が痛い。


と、そんな記憶を辿りながら

“都会の雪はそこまで寒くないな”

と、思い直す。